弁護士にとって「書く力」とは何か

こんにちは。私は韓国で金融および不動産関連の法務を中心に活動している、10年目の弁護士です。
弁護士として業務を遂行する上で、「書く力」は基本にして極めて重要な能力の一つだと考えています。
本稿では、日々の業務で私が意識している「法務ライティングの原則」をご紹介したいと思います。

「話す」よりも「書く」

近年、弁護士を主人公にしたドラマが人気を博していますが、実際の弁護士の日常はテレビで描かれるようなドラマチックな場面よりも、むしろ地味で静かな作業の連続です。私の同僚たちとも、「もし弁護士の日常をそのままドキュメンタリーにしたら退屈すぎて放送できないだろう」と冗談を言い合ったほどです。

弁護士の業務の多くは「話すこと」よりも「書くこと」にあります。
ドラフトを作成し、チームで議論を重ね、何度も推敲を繰り返す——それが弁護士のリアルな日常です。もちろん、クライアントとの円滑なコミュニケーションのためには一定レベルの話術も必要です。しかし、書く力がなければ、基本的な業務すらままならないと言っても過言ではありません。

効果的な法務ライティングのための原則

イシューの明確化

クライアントから提供された事実関係や質問事項を的確に把握することが、すべての出発点です。実務では、クライアントが最初から正確な形で質問を整理してくることは稀で、電話や追加資料の請求を通じて、何を求めているのか背景も含めて把握する作業が欠かせません。

このプロセスを怠ると、誤った方向で検討が進み、最終的に求められていた回答と全く異なる結論を出してしまうことにもなりかねません。

簡潔かつ論理的な文体

法的文書は文学作品ではありません。流麗な表現よりも、読み手に意図が明確に伝わることを最優先すべきです。裁判所の判決文などの影響で長文になりがちですが、あまりにも長い文はクライアントの理解を妨げます。

もちろん、必要な部分にはリスクの所在などを丁寧に説明し、理解を促す工夫も必要です。

断定的な表現は避ける

訴訟書面など、意図的に強い表現を使う例外はありますが、基本的には断定を避けるべきです。法律上の判断には常に例外や事実の違いによる結論の変動が伴います。

「可能性が高い」「より合理的である」といった表現で柔軟さを残し、「提供された事実関係に基づいた意見である」旨を明記することが望ましいです。

適切な引用

判例や論文を引用する際には、まず自分の主張を整理し、それを補強する形で引用を行うことで、論旨が明確になります。また、二次資料からの孫引きではなく、一次資料を確認する姿勢も重要です。

同様の内容の資料が複数ある場合は、最新のものを引用することを心がけましょう。古い資料は現在では無効な情報を含んでいる可能性もあります。

小見出しと要約の活用

法的な意見書は、法曹関係者だけでなく、法に不慣れなクライアントにも読まれる可能性があります。そのため、簡潔な要約を冒頭に入れたり、小見出しで構成を整理したりすることで、全体像を掴みやすくする工夫が必要です

書く力を高めるために

多様なスタイルの文章を書く習慣

文章力は一朝一夕には身につきません。法的な論文だけでなく、ブログなどで自由に書くことも表現力を高める良い方法です。

最近の研究では、文章を書くことはストレスの軽減や職業的満足感の向上、人間関係の改善にも役立つとされています。日常的に何かを「書く」ことを習慣づけてみてください。

フィードバックを積極的に受ける

法律事務所に所属していると、先輩弁護士からフィードバックを受ける機会があります。最初のうちは原稿が真っ赤になって返ってくるかもしれませんが、経験を積めば自然と改善されていきます。

落ち込まず、前向きに意見を求めて、自分の書き方を磨いていきましょう。


「書かないこと」を選ぶ難しさと価値

これまで多くの法律文書を書いてきましたが、あえて「最高の文章」を一つ選ぶなら、それは「書かなかった文章」かもしれません。

すなわち、法的リスクを発見し、クライアントの希望に沿った意見書をあえて提出しなかった案件のことです。

韓国の弁護士法第2条には、「弁護士は公共性を有する法律専門職として、独立して自由にその職務を遂行する」と規定されています。弁護士の意見は多数の関係者に影響を及ぼすため、経済的利益やクライアントの意向に流されてはいけません。

当然、そのような意見書には報酬が発生しないことも多く、ビジネスとしては難しい判断です。しかし、プロフェッショナルとしての良心に基づき、「書かない」という決断を下すことの重要性を、私は経験を通じて学びました。

業務を開始する前に主要な論点を把握することで、後から大きな問題を回避することも可能です。それでも業務途中で重大な法的リスクが発見された場合は、クライアントに説明し、業務を中止するという決断も必要になります。

「書くこと」は弁護士にとって基本ですが、時には「書かない」ことが最も誠実な選択である場合もあるのです。

Minsik KIM (Kevin)

弁護士

김민식 변호사

私は韓国の弁護士で、金融および不動産に関する法律相談を主に取り扱っており、弁護士としての経験は10年になります。
本ブログの内容は一般的な参考情報としてご利用ください。個別の事案に関する法律判断については、必ず法律の専門家にご相談されることをお勧めいたします。

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